賃貸借契約のチェックポイント

ポイント5:敷金と保証金の違い

敷金と保証金について言葉は違うが同じと思っている人が今ほとんどです。中には不動産業者の人も。それも無理はありません。賃貸借契約書では、内容はまったく同じだからです。
でも、敷金と保証金は法的に違います。これには重大な問題が秘められています。それについて述べます。

1. 敷金


端的に言うと敷金は法律用語で、それは土地建物の賃貸借の際、賃借人が賃貸人に交付する債務補償担保のことです。賃借人が負う債務とは「契約上発生する家賃の支払債務、建物の毀損汚損債務、建物の用方違反による損害債務など」のことです。そして敷金には特約がない限り、賃貸人は利息を付けません。
判例は、敷金の法律的性質について「賃貸借契約終了に際し、賃借人に、賃料やその他の債務に不履行があれば、それを控除した残額を返還し、債務不履行がなければ全額を返還するという停止条件付き返還債務を伴う金銭である」としています。
そして、賃貸人に所有者としての地位に変動があった場合、敷金は新所有者に引き渡されたか否かを問わず、法的に新所有者に必ず引き継がれるものとします。
これが敷金が持つ重大なポイントです。しかし、多額な敷金の場合には継承額を減額した判例も出ています。


2. 保証金


建物賃貸借契約では保証金も敷金と同様に賃借人が賃貸人に対し負う債務保証担保と規定しています。それゆえほとんどの人が敷金と同じと思っているのです。しかし法的には敷金と同じではありません。
法的にこの保証金は、日本独自の商慣習であった「建設協力金」が転化した金銭消費貸借とみなされています。

建設協力金は明治時代後半頃、三菱地所や三井不動産などの大手不動産会社が貸ビルを賃貸するに当たり賃借人から敷金として賃料6ヶ月分のほかに、建設協力金として坪当たり建設費の約20%前後を授受したのが始まりです。無利子で10年間据え置き、そしてその建設協力金はその後、利子を賦して10年均等で返還するという金銭消費貸借でした。 従って、仮に5年で解約した場合、敷金は精算されすぐに返還されますが、建設協力金は金銭消費契約のために全額返還されるまで20年の歳月が要ることになります。

この建設協力金は1960年代後半まで続いていましたが1970年代に入り、オフィスビルの需要が増したことによって消えてしまいました。以後、大手不動産会社は敷金に一本化して家賃の24ヶ月分以上を授受するようになり、また中小ビルは保証金に一本化し坪当たり建設費の20%前後を授受するようになりました。 敷金の場合は借地借家法のもとに、物件を明け渡した際には、債務を清算の上に速やかに、返還されます。
保証金の場合は、解約時には債務を清算の上、解約時償却費と称して賃料の○ヶ月分、また保証金の10%~20%を差し引き返還。中には保証金の償却費として毎年3%~5%を差し引くというビルも登場しました。つまり、保証金はビルの経営戦略上から生まれたものです。
それゆえ保証金は、法的性質として「債務補償担保」ではない、「金銭消費貸借」とされます。

さらに保証金には大きな問題があります。つまり、保証金は法的に債務保証担保ではないため、また金銭消費貸借であるため、賃貸人の地位が変わった場合、旧賃貸人から新賃貸人へ保証金の返還義務が引き継がれていないと、賃借人は保証金の返還請求権を新賃貸人に請求できません。言い換えるならば、この場合、新賃貸人は賃借人に対して保証金の返還義務がないということです。
それゆえ、あの1991年のバブル崩壊後、そしてまた2009年リーマンショック後、破産したビルを競売で取得した新賃貸人に対して、賃借人は旧賃貸人に預けた保証金の返還請求ができなかっただけではなく、新賃貸人から新たに敷金を要求されるという事態が生じました。いわゆるハゲタカの問題の一つとなったのです。従って保証金で預ける場合は要注意です。

◎なお、この保証金・敷金の返還方法、そして保証金の解約時償却と敷金の敷引きについては ポイント 6にてご説明します。





ポイント1:契約面積についてポイント2:契約期間の更新と終了ポイント3:更新料についてポイント4:共益費と管理費の違いポイント5:敷金と保証金の違いポイント6:解約時償却と敷引きについてポイント7:物件の明け渡しと原状回復について

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